元引きこもりのモノローグ

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感想 所正文 小長谷陽子 伊藤安海『高齢者ドライバー』 車と自由と社会発展と

 どんどん行きましょう。今回読んだのは『高齢ドライバー』です。この頃、高齢者が運転する自動車による事故についてのニュースをよく聞きますね。すると、「高齢ドライバーは危険なのかな?」と思ってしまうところですが、この本によるとそうでもないようです。

 実は日本の年間交通事故死者数は年々減少しています。(死者数だけではなく、負傷者、そもそもの発生件数なども)また、高齢者による交通事故の件数は年々増加していますが、それも「高齢者」と呼ばれる人の絶対数が増えたことに理由があります。さらに、人口比率で考えるなら、免許取りたての20代以下のほうがはるかに危険であることが明らかになっています。では、なぜメディアは高齢者ドライバーだけを問題視するのでしょうか。

 電車やバスなど発展した交通網を持つ社会で暮らす私たちですが、その恩恵を十分に受けられるのは、発達した都市部に住む人間だけでしょう。車を持つこと、そして、自分の意思で遠くに出かけること、というのは全ての人に与えられるべき自由であると思います。この本の面白いポイントは、高齢ドライバー問題を「高齢化」という人間の問題だけではなく、急速に発展してしまった社会の歪としても提起しているところです。

 今のこの車社会はたったの50年で出来上がってしまったのです。そして、1970年では、記録上最悪の交通事故率であり「第一次交通戦争」呼ばれていたそうです。「100人に一人が交通事故で負傷」というとその恐ろしさが伝わるでしょう。(平成29年度なら、交通事故の死傷者数は58万4544人、総人口が1.268億人なので、100人に0.46人ぐらいかな?それでも多いという印象)その背景には、交通や命の問題よりも、経済の発展のほうが重要であると効率性を重視した結果であると本文では記されています。

 その後、交通違反の取り締まりや罰則の強化、横断歩道やガードレール等の拡充により交通事故は少しづつ減りましたが、1980年になるとまた事故が増え始めたのです。その裏にはやはり、経済的発展がありました。

 私は、交通事故にあった被害者、そして、意図せず加害者になってしまった人々をないがしろにするわけではありません。(私自身も事故にあって負傷したことがあります)これは勝手な妄想なのですが、高齢者ドライバーが話題になるということは、この社会が経済的に行き詰っていて、命や安全の価値を重んじているのかもしれない、と思いました。